サラランダへようこそ
まだ小学校にあがる前の、幼かった時の事。
家族4人で千葉県のマザー牧場へ、東京からドライブに出かけた。
あの時代の交通渋滞はけっこうひどかったけれど、これは家族史上最高度の渋滞経験だったのではないかと思う。
牧場が目的地なのであろう先の見えない車の列。
なかなか車が進まないため、乗り疲れ、車から降りた人々が車道の脇で山菜とりをしている。
目的地にたどりつけない者同士、これぜんまいかしら、と会話をし、仲良くなったりして、やっとたどりついた時はすでに辺りも暗くなり、マザー牧場閉園時間になっていた。
係の人がゲートを閉めようとしているにもかかわらず、ここまで長い道のりを共にたどり着いた人々が我も我もとゲートを押し開け、お土産だけでも、と売店にほぼ押し入って、民衆運動の徒さながらに妙な団結でもってマザー牧場のお土産を獲得していた。
私たち家族もなんとかお土産を買うことができ、一瞬のマザー牧場を後にして、またも長い車の列に並ぶことになった。
日もとっくに暮れ、真っ暗な山道を車のライトとテールランプが光る。
まだ幼かった姉と私は、真っ暗で怖いのと一日中家族で非日常体験ができて楽しかったのとで疲れ、車の後部座席のシートをフラットにして寝ていた。
その時、私は夢と現実のはざまで、運転する父に、「サラランダへはどう行けばいいですか?」と尋ねる年配の夫婦を見た。
その日、家に帰ったのは夜中だった。