経堂の駅という居酒屋
数年前まで、経堂のすずらん通りに、駅という居酒屋があった。
わりと地味な居酒屋で、40代くらいの店員さんが一人できりもりしていた。
焼き鳥がメインで、大きめの鷄肉が良い加減に焼かれ、出てくる。
しめの鷄雑炊もシンプルでおいしかった。
どれも良く素材の味が引き出され、料理を出す順番やタイミングも店員さんが決めているようだった。
いつも控えめなラジオと換気扇の音だけで、来るお客さんもカウンターにひとり座る常連のサラリーマンか静かなカップルなど、居なれた人たちだった。
味も、雰囲気も、店員さんの気遣いも、私としては満点に近く、足繁く通ったものだ。
ただ、なにしろ一人できりもりしているため、忙しい時は営業時間中にもかかわらず看板の電気を消灯する。
こちらは事情がわかっているので、入れますか、とやや強引に店をのぞく。
時間がかかりますと言われつつも、食べたいものだから、待ちます、と店に入る。
しばらく間があいて、久々に行きたくなった時、駅はなくなっていた。
駅の店員さん、あの時はいつも強引ですみませんでした。もし過労が原因だったら本当に悪いことをした。
早く復帰して、またあの美味しい焼き鳥を食べさせてほしいと思う。
あるいは駅は他店舗があるらしく、もしかしたらそちらでがんばっているのかもしれない。それならばうれしいが、また電気を消灯されていたらと思うと、何かうれしいような少し可笑しいような気がするのである。